1. 金属分離のためのホスト分子の開発

 2. 非ニュートン流体をチューブ内部に流した流体によるコロイド粒子の分離

 3. 磁性粒子の動的な凝集構造変化を用いた分離プロセス

 4. 化粧品素材を目指した高粘性流体中の酵素反応

 5. 吸着剤や配位子と膜を用いた金属回収プロセス

 6. 非線形変化と酵素反応を組み合わせた有用物質生産・分離

 7. 高分子修飾シリカ粒子を用いた移流集積法によるコロイド粒子膜の構造制御

 8. 感温性高分子を利用した金属ナノ粒子の形態制御

 9. 感温性高分子吸着剤による温度スイング吸着分離システムの開発

 10. 両親媒性分子水溶液の分子シミュレーション

 1. 金属分離のためのホスト分子の開発
   本研究では金属の相互分離のための溶媒抽出試薬やイオン交換樹脂のような分離剤の開発を行っています.分離剤の母体となるのは,「ホスト分子」に分類されるカリックスアレーンです.この化合物は小さくて剛直な空孔を有し,また様々な化学修飾が可能で複数の官能基を1分子に導入することが可能です.これらの特性であるイオン認識機能をうまく利用し,下欄上図のように大きさの異なるイオンから特定のイオンを取り込むことができます.さらに,導入する官能基を種々選択することにより,ターゲットを種々変えることも可能です.
   
これまでの結果から,@カルボン酸誘導体(下欄中図)によるナトリウム添加系での抽出能・分離能の向上,Aカルボン酸誘導体による鉛の特異的抽出,Bケトン・アミド誘導体による銀の選択的抽出などの挙動を明らかにしてきました.また,カラム担体・イオン選択性電極素子などへの応用を目指し,カリックスアレーンを含有するイオン交換樹脂の開発を行っています.
   また、「三脚状分子」または「ホウキ型分子」と呼んでいるトリメチロールノナンを母体とする化合物(下欄下図)にも着目しています.この化合物はカリックスアレーンよりも小さな金属結合部位を有し,またC3対称性を有しているため三座配位子となり,カリックスアレーンとは異なった挙動を示すと期待しています.この化合物にも様々な化学修飾を施し,金属イオンの分離を目指します.

イオン認識機能の模式図


カリックスアレーンカルボン酸誘導体


三脚状分子

 2. 非ニュートン流体をチューブ内部に流した流体によるコロイド粒子の分離
   微生物や結晶などのコロイド粒子は様々な種類や形状を持っています.このようなコロイド粒子の形や機能を損なうことなく,コロイド粒子を分離する方法として流体を用いた方法を提案しています.らせん状のチューブに非ニュートン流体を流し,そこに分離の対象であるコロイド粒子を注入して,コロイド粒子のサイズや表面特性による分離の方法です.非ニュートン流体は,チューブ内でニュートン流体とは異なる乱れた速度分布を示します.チューブ形状をらせん状にすると,遠心力が流体に働くために二次流れが生じます.このようにチューブ形状をらせん状にしてかつ流す流体を非ニュートン流体とするとチューブ内部の速度分布を乱れた状態を形成でき,チューブが円管でニュートン流体を流したときよりも高いコロイド粒子の分離能を目指しています.

 3. 磁性粒子の動的な凝集構造変化を用いた分離プロセス
   磁性粒子は,磁石との距離あるいは強度によって様々なマクロ構造を形成します.このマクロな構造は磁石を開放すると崩壊します.この磁性粒子が形成するマクロな構造をプラグフローのようなチューブ内部に形成し,コロイド分散溶液や多糖溶液を通液して分離を行うシステムを提案しています.磁性粒子のサイズは表面の化学特性,プラグフローに流す流体の性質を変化できます.さらに磁性粒子の構造変化も起こすことができます.様々な分離の場としての応用を目指しています.

 4. 化粧品素材を目指した高粘性流体中の酵素反応
   酵素はアミノ酸からなる複雑な高次構造をもちます.酵素と粘性溶液を混合すると,酵素の構造は粘性溶液によって変化します.加水分解酵素と多糖類の混合溶液を調製し,その粘性,構造,活性の関係を調べています.また,コロイド粒子の表面を様々な高分子で修飾し,ラジカルトラップ剤や酵素活性阻害効果を調べることで,化粧品への応用を考えています.

 5. 吸着剤や配位子と膜を用いた金属回収プロセス
   高分子重合を用いた官能基を含有した金属の吸着剤の研究をしています.貴金属や有害金属の回収や除去にそれぞれ役立てることが出来ます.配位子という金属と複合体を形成する物質と膜を用いた分離システムも提案しています.バイオマス廃棄物などの吸着剤を利用した金属の分離方法も提案しています.

 6. 非線形変化と酵素反応を組み合わせた有用物質生産・分離
   非線形反応のような複雑な反応を組み合わせると時間によって様々な生産物を生産できます.酵素反応場にこのような非線形反応を導入した有用多糖の合成を行っています.

 7. 高分子修飾シリカ粒子を用いた移流集積法によるコロイド粒子膜の構造制御
   微粒子が膜状に集積したものを粒子膜といい,様々な機能性材料への応用を目指して盛んに研究が行われています.本研究では,種々の高分子を表面修飾したシリカ粒子と連続的な粒子膜作製手法である移流集積法を組み合わせることで,様々な構造を有する粒子膜のテンプレートフリーな作製手法の確立を目指しています.

高分子修飾シリカ粒子を用いた移流集積の模式図と粒子膜のSEM画像

 8. 感温性高分子を利用した金属ナノ粒子の形態制御
   液相還元法による金属ナノ粒子の合成では,ナノ粒子の凝集を防ぐために高分子や界面活性剤が保護剤として添加されますが,これらは保護剤として働くだけでなく,得られるナノ粒子の大きさや形にも影響を与えることがあります.本研究では,この保護剤として感温性高分子を用い,合成温度による金属ナノ粒子の形態制御を目指した研究を行っています.様々なナノ粒子合成の高効率化のため,ナノ粒子の形態制御メカニズムを明らかにすることも目指しています.

様々な形態のナノ粒子形成過程の模式図

 9. 感温性高分子吸着剤による温度スイング吸着分離システムの開発
   水溶液中においてある種の高分子は,温度により可逆的にその性質を変化させます.例えば,代表的な感温性高分子であるPolyN-isopropylacrylamide(PolyNIPA)は下図のような性質を示します.そこで,このような高分子を利用した感温性吸着剤を開発することで,省プロセス化と吸着剤の再利用の実現に向けた研究を行っています.

感温性高分子および感温性高分子ゲル

 10. 両親媒性分子水溶液の分子シミュレーション
   分子動力学(MD)法等に基づく分子シミュレーションには,分子数やシミュレーション時間が大きく制限されるという問題があります.その解決法の1つとして,興味の対象である溶質よりもはるかに数の多い溶媒をあらわに取り扱わず,その影響を溶質間相互作用に取り込むことで計算コストを劇的に削減することが考えられます.このような手法(陰溶媒モデル)では,用いる溶媒の影響を含む溶質間相互作用が最も重要となります.本研究では,溶媒中の溶質間に働く相互作用である平均力ポテンシャルをあらかじめMD計算から求め,陰溶媒モデルの溶質間相互作用として適用することにより,界面活性剤の自己会合現象のシミュレーションに成功しています.この手法を応用し,従来は困難であった固液界面における界面活性剤の吸着挙動や,界面活性剤水溶液中におけるコロイド粒子間力の分子シミュレーション解析の実現も可能になると考えられます.

界面活性剤水溶液の分子シミュレーション